ピュア・ラブ
「あった」

一袋がずっしりと重い砂を一袋だけ、カゴに入れる。
ついで、と、おもちゃを見て回った。
モモは、毛糸玉が好きだった。冬になると編み物をする私は、モモが寝る様になったあの出窓に、毛糸で座布団を編んでいた。
それにじゃれついて、遊んでいた。編み物が進まないので、違うおもちゃで気をそそっても、最初だけで、やっぱり毛糸玉に戻って遊んでいた。

「ねずみがある」

一度もネズミのおもちゃで遊んだことがない。もしかしたらこれも気に入るかも知れないと思い、一つ手に取って、カゴに入れた。
自転車で重い物を運ぶのも容易じゃない。買い物はこれだけにして、レジに向かった。
ホームセンターの袋を下げ、自転車に乗るときには、すっかり体は冷めていて、また、体が震えた。

「風邪を引いちゃうわね」

ぶり返すのはよくない。手袋をはめて私は、アパートを急いだ。
いつもの橋の近くにさしかかった時、信号待ちをしていた。すると、学生らしい二人組が、酔っているのか、私に絡んできた。

「お姉さん、一人? めっちゃ綺麗なんだけど。俺達、これからカラオケに行くから一緒にどう?」
「結構です」
「いいじゃん、寒いしさあ」
「止めて!」

一人の男が肩に手をかけ、私の顔を覗きこむ。私は、肩を掴まれたことによりふらついてしまい、自転車を降りた。
周りには誰もいない。助けを呼んでも誰も来ない。
私は、過去を思い出した。
高校の時、新聞配達のバイトをしていたが、早朝でも不審者はいた。
一番、配る部数が少ない区域を負かされたが、少し暗かった。
アパートを配り終え、階段を降りた時、階段の下から男が、私に向かって、露出した下半身を見せた。
あまりのことに、私は、全く声が出なかった。
それ以上なにもされなかったが、一度、全ての新聞を配り終わって販売所に帰るとき、こうした若い男性に声をかけられたこともあった。
その時も、「綺麗な顔をしているね」だった。
販売所の奥さんは「大事な娘さんをお預かりしているのだから」と言って、区域替えをしてくれた。
私は、その時初めて、祖母意外に自分を大事に思ってくれている人と出会った。と思った。
女の力では振り払うことなど出来ないし、相手は酒を飲んでいる。何をされるか分からない恐怖で、本当に怖かった。
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