ピュア・ラブ
橘君が帰ると、どっと疲れが出た。
嫌な意味じゃなく、緊張が解けたことによる疲れだ。
水を飲もうとして、冷蔵庫を開けると、ケーキの箱が目に入る。

「そうだ、ケーキがあったんだわ。食べよう」

戸棚から皿を出して、私は、ショートケーキを選ぶ。
フォークも乗せて、水の入ったコップとケーキ皿を持って炬燵に戻る。

「いただきます」

モモは、また新しい食べ物が出てきたと思って、テーブルの上にあがった。
ケーキ匂いをクンクンと嗅ぐと、気に入った食べ物ではないと判断したらしく、すとんとテーブルから降りて、私の上に乗った。

「じゃあ、頂くわね」

ケーキを一口食べると、生クリームの甘さとイチゴの甘酸っぱさが広がって、苦い口のなかが甘くなった。

「いけない、二つあったんだから、一つを橘君に出せばよかった」

買って来た物はいつでも自分だけのもので、人と分け合うと言うことをしなかった。
まったく気づかずに、いい歳をした女が恥ずかしい。
私は、激しく落ち込んでしまった。

「独り占めをしようなんて思ってなかったけど、気が付かないなんて」

乗っかっているモモにそう話しかける。当然モモは無反応だ。

「モモのことはよくわかるのにね」

白くキレイな毛を撫でながら、私はそう思った。
そんな風に落ち込みながら、夜の時間を過ごしていると、携帯のメール音が鳴った。

「よいしょ」

乗っているモモは重い。炬燵布団を掴んで腰を少し浮かす。そのまま手を伸ばし、携帯を取った。
さっそく橘君からだった。
レオを無理やり抱っこしたのか、ぶすっとした表情のレオと、私が贈った手袋をはめた橘君が映った写メが送られてきた。

「ふふ、レオ、迷惑そう」

タイトルにメリークリスマスとだけ書いてあった。
橘君だったら、なんとか友達付き合いが出来そうなきがする。でも、面倒になったらどうしよう。引っ越しをしてもいいし、電話だって番号を変えればいい。いけない、そんなことを思っていると、橘君がしつこく付きまとっているみたいだ。そうじゃなく、そんな先のことまで考えなくていいから、今は、橘君の言う通りに、話しをすることから始めてみるのもいい。
私は、炬燵で丸まっているモモを無理やり起こして、写メを撮った。
返信はもちろん、
「メリークリスマス」と送った。

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