ピュア・ラブ
「このままだとずっと居ちゃいそうだから、帰るね。明日の初詣楽しみにしてる。あ、朝、お願いします」
「うん、分かったわ」

橘君は、モモも頭をなでると、ハンガーに掛けてあったダウンジャケットを着た。
私は、マフラーを手渡すと、橘君は、それを黙って受け取った。

「じゃあ、明日ね」
「うん、気をつけて」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

私は、橘君が階段を降りて姿が見えなくなるまで見送った。
なんども手で中に入れとジャスチャーしていても、私は、入らなかった。
姿が見えなくなり、家の中にはいると、もうすぐ新年を迎える時間になっていた。
いつもなら寝てしまっている時間だが、モモと新年を迎えることにする。
紅白歌合戦では、カウントダウンが始まり、私もモモを抱いて、数えた。

「あ、明けたわ。モモ、明けましておめでとう」

そう言って、いつもしてしまっているように、モモにキスをした。
すると同時に、携帯がなる。メールだった。

「橘君だ」

メールを読むと、「明けましておめでとう」とあった。
随分マメな人なのだなと、思った。
クリスマスといい、年末、に年明け。こんなに気にすることばかりで疲れないだろうか。
毎年、変らず過ぎてゆく日々が、今年はモモの出現で違っている。人の手を借りて生きているモモ。そして、拾って来た責任もある私。そこへ、高校の同級生だった橘君が加わった。たった半年の間で、これまでに自分の環境が変わったことなどなく、戸惑う事も多い。その一つが、「友達」という括りだ。
橘君は、「初めて声が聞けた」と言いたくらい、私は、話しをしなかった。会話など不要だった。
橘君の病院から遠ざかろうとしたことを今では反省している。
この僅かの期間で、私は、「友は選べばいい」という事を知った。
確かに人付き合いを避けていた私にとって、知り合いが出来る事が、かなりのストレスだったことは間違いない。でも、私の領域にずかずかと入ってくる橘君を、知りもしないのに、毛嫌いするのはどうなのだろうと、考えた。
これは、私が、社会人となり、一人で生活をして、大人になったから分かり得たことだと思う。
そんなことをつらつらと思いながら、橘君を起こすことを忘れない様に、目覚ましをセットして、ベッドに入った。
すると、待っていたかのように、モモが布団の中に入り込み、ゴロゴロと喉を鳴らした。
初めて感じるワクワクした気持ちを残し、私は、眠りについた。
< 97 / 134 >

この作品をシェア

pagetop