ピュア・ラブ
翌朝、目覚ましより早く起きると、カーテンを開けて、ベランダの窓を開けた。
元日の今日は快晴だ。
今年も自分らしく穏やかに過したい、そう願う。

「わあ、いいお天気。モモもそう思う?」

ベランダには、モモが飛び出したりしない様に、ホームセンターで波板を買い、取り付けた。隣にも行かない様に、防災扉の下には、ブロックを置いてある。
足元にはモモが外を見られるくらいの隙間があり、そこから外を見ていた。

「う~ 寒い。モモ入って」

賢いモモは、呼ぶと傍に来る。
モモが入ると、すぐに窓を閉めて、ファンヒーターをつけた。
アパート自体は築年数もそんなに経っていない。隙間風が入ることはない。
ファンヒーターをつけると、すぐに部屋が温まり始め、モモはその前に陣取った。

「レオと一緒ね」

モモの様子をみて、レオを思い出す。
橘君を起こす時間を気にしながら、昨夜作っておいた簡単なおせちとお雑煮を食べた。
テレビは朝から賑やかで、新年を祝っている。
時間を気にしつつ、支度をする。

「あ、起こさなくちゃ」

時計を見ると、橘君を起こす時間になっていた。
携帯で橘君の着信からコールをする。

「出ないわ、どうしたのかしら」

留守番電話にもならないので、私は、しつこいと思ったが、約束なので、延々と鳴らし続ける。
やっぱり出ないので、一度電話を切る。

「もう、ぐっすり眠ってるのね」

昨日、帰ってから遅くまで起きていたのだろうか。新年のメールをくれてから、すぐに眠ればいいのに、夜更かしをしたのだろうか。
私は、再度、電話をかける。
そして、やっと電話がつながった。

「おはよう、橘君」
『ん……』

確かに電話はつながっている。だけど、何の応答もない。

「橘君、朝よ。起きて」
『ん……お、きた』
「電話を切るけれど」
『ん、ありがと』
「じゃあね」
『うん』

大丈夫だろうかと不安になりながらも、いつもでも電話を切らない訳にはいかず、私は、電話を切った。
いつも過した正月と違う朝だ。簡単なおせちとお雑煮を、正月番組をみて食べていたが、今年はそう言う訳にはいかない。
お雑煮だけを食べ、出掛ける支度をしなければならない。忙しい。
食事の後片付けをして、支度をする。時計は丁度いい時間をさしていた。
橘君を待たすのも悪い。
人と待ち合わせをするという事は、こうも忙しなくなるものなのだな。
いつもと同じことをしているはずなのに、何故か余計なことをしてしまう。
結局、アパートを出る時間がぎりぎりになり、慌てて靴を履いた。

「モモ、出掛けてくるわね、すぐに戻るから良い子にしていてね」

陽があたっている出窓に寝ているモモに声をかける。
一度、モモの所在を確認しないまま買い物に出てしまい、帰ったら、押し入れで鳴いていたことがあった。
それからというもの、指さし確認ならぬモモ確認を怠らない。
そう長い時間じゃない。混雑はしていても初詣だけだ。玄関に掛けあるダッフルコートを着て、ポケットに入れてある手袋をはめて、アパートを出た。
< 98 / 134 >

この作品をシェア

pagetop