あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
「一目惚れしちゃいました……‼︎」
顔を上げた彼女と目が合った。その瞬間、俺の中で何かが動いたような気がした。
今まで噛み合わずにいた歯車が動き出した、みたいな。そんな感じだった。
それはどうしてなのか分からないけれど、ひとつ言えるのは……多分、俺はこの子とどこかで会ったことがあるということだった。
「えっと……あのさ」
「あ、ごめんなさい!まずは自己紹介ですよね⁉︎」
『どこかで会ったことあるよね?』と聞こうとしたところを、遮られた。
……あぁ、良かった。
少し……いや、かなり安心した。だって、俺が言おうとしたのはナンパの決まり文句みたいな台詞だった。それに、彼女は今さっき『一目惚れしちゃいました』と言ったのだから、間違いなく初対面なはず。
もう少しで恥を掻くところだった。危ない危ない。
「私の名前は、ハルといいます!隣町の大学の二年生で……」
「……え……ハル……?」
途中から、彼女の声はまるで聞こえなかった。耳から、音が何ひとつ入ってこなくなった。
俺の脳内で繰り返されるのは〝ハル〟という名前だけだった。