あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。

足をジタバタとさせて、まるで子供のように駄々をこね始めるハル。こうなると、彼女は大変だ。


「自分の成績が危ないの分かってる?」

「……」

「この間、智(さとし)が言ってたよ。テストの成績良くないらしいじゃん」

「……ふんっ。智くんのお喋り」


そっぽを向いたハルが、決まりの悪そうな顔でそう小さく呟いた。

智というのは、俺とハル共通の友人。

俺よりひとつ下のハルと幼馴染であり同じ大学に通っている智は、俺の友人でもある。通っていた高校が同じだった。

そんな智から、ハルのことはよく聞いている。学校での様子とか、ハルが俺のことをどう話しているかとか。

別に聞きたいわけじゃないけれど、彼が話してくるから聞いている。そのくらいだ。


「ちゃんと進級できるように勉強しないとダメだよ。ハル」


自分なりに、柔らかいトーンで、優しく声をかけた。しかし、ハルは一瞬悲しそうな顔をした。


「……あっくんの、バカ」

「え、ハル…!」


ハルが、俺に背を向けて去っていく。

俺は、そんな彼女を追いかけるわけでもなく、何か声をかけるわけでもなく、ただただ彼女の背中を見送っていた。


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