あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
「……どうしたの」
「え……っと……ううん。ごめんなさい。何もないよ」
多分、世界一下手くそな嘘。顔に〝そんなの嘘です〟って書いてある。
ハルは多分、世界で一番嘘が下手だ。それはある意味、世界で一番素直だと言えると思う。
そんなハルのことは、一応全て分かっているつもりだ。自分では、そう思っている。
「嘘でしょ。何かあるって顔に書いてる。……言って。ちゃんと聞くから。」
返事の代わりに一度だけ小さく頷いたハルが、しばらくしてから口を開いた。
「あっくん、私のこと好き……?」
聞き覚えのある台詞に、胸がドクンと鳴った。
俯くハルの表情を隠す前髪に、ぎゅっとスカートの裾を掴む指先。
高鳴る鼓動が抑えられないのは、この台詞を前の彼女……ハルからも聞いたことがあったからだ。
……俺は、後悔していた。
ハルがいなくなってしまう前、ハルにそう聞かれたのにちゃんと答えられなかった事。
本当は好きなのに、ちゃんと好きだと伝えられなかった事。
あの時、ちゃんとハルに『俺も好きだよ』って答えられていたら良かったって、何度も、何度も思った。
伝えよう、伝えないと。って思った。でも、その時にはハルは額縁の中にいた。
写真の中の笑顔のハルにしか、俺は伝えられなかった。