あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
「………夢か」
瞼を強くこすり、開いた。
すると、もうそこは真っ暗な世界ではない。見慣れた自分の家だった。
どうやらリビングのソファーで寝てしまっていたらしい俺は、ゆっくりと起き上がり、キッチンに向かう。
冷蔵庫の扉を開き、お茶を取り出そうとしたけれど、お茶がない。
「……あれ」
昨日買っておいたような気がしたんだけど……なんだ、気のせいか。
溜息をひとつ零すと、渋々ネイビーのコートを羽織った。そして洗面所の鏡を見て、若干寝癖のついている黒髪を直す。
再びリビングに戻った俺は、テーブルの上の財布とスマートフォンを手に取った。画面をつけてみる。時刻は、午後4時45分。
……メッセージは、誰からも来ていない。
部屋に小さな溜息だけをひとつ残した俺は、部屋を出た瞬間、頰を撫でた冷たい風に首を竦めながら歩き出した。
歩き出した瞬間に、ポケットの中で震えたスマートフォン。それに反応した俺は、寒いけれどポケットから携帯と温めていた手を出してメッセージを確認。
メッセージの送信者は、友人だった。
《そういえば、ハルちゃんからまだ連絡ないのかー?》
送信者が期待していた人ではなかったのか、少しだけガッカリした自分がいた。