あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
「ええ!いいじゃん別に!」
「良くない‼︎」
「いてっ!」
彼女に一発パンチを食らわされた智がお腹を抱えた。
「おお、痛そう……」
呑気にそう呟いた俺を智が子犬のような目で見る。少しだけ哀れに感じなくもないけれど、いいペアだなと思う。
どんな状況下においても若干……いや、全く空気の読めない智。そんな智の言動をセーブするのが彼女の仕事。そんな感じでこの二人は上手くやっている。
「二人とも帰っちゃっていいよー!智は私がなんとかするから」
「あ、うん。ありがとう。じゃあ」
「ありがとう!また明日!」
ハルと一緒に智と彼女に手を振り、教室を背にする。背後から「おい!酷いな!待てよー!」という智の声が聞こえてくるけれど、そんなもの無視だ。
「ふふ、本当にいいカップルだね」
「うん。俺もそう思う」
「私達もあんな風にしてみる?」
「え? どうやって?」
にしし、と笑ったハルが俺の目の前で立ち止まり、二人向き合う状態になる。
そして……
「いっ……⁉︎」
ドン、というような音とともにお腹に瞬間的な痛みが走った。