あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
「やだ、敦くんが照れてるー!」
「照れてない」
「嘘だ!照れてるよ!ほら、耳も真っ赤じゃない」
「赤くないから」
「あはは、赤いってばぁ」
「ああ、うるさい。早く帰るよ」
恥ずかしくて、顔が熱い。鏡を見なくたって自分の顔が赤くなっていることくらい分かる。
そんな顔を見られたくなくて、俺は彼女よりも数メートル先を歩き始めた。
「待ってよー、もう」
追いついてきたハルが隣に並ぶ。そして、俺の横でにこにこと笑っている。
……本当に、幸せそうに笑うなぁ。
右隣にいる彼女の口角は、いつも綺麗に上がっている。
彼女に対して特に不満なんてなかった俺と、聞き分けがよくて、怒っているところなんか全く見たことのない彼女。そんな俺たちは、喧嘩なんて一度もしたことがなかった。
俺の横にいるハルは、いつだってこうして笑っている。
「ねぇねぇ、敦くん。私のこと好き?」
だから俺は、そんなハルの我慢や不安に気づかなかった。
「……なんでそんなこと聞くの。聞かなくても分かってるくせに」
彼女の強がりに気づかず、知らず知らずの間にそれに甘えていた。
そして、彼女に『好き』だと一度も伝えられなかった────。