あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
本当の事を教えて
*
「いらっしゃいませー!」
黒色ののれんを両手で分けてくぐる。そうすると、すぐそこにいた男性スタッフが声を張った。続けて奥の方から「いらっしゃいませ!」と声が聞こえてくる。
「お好きな席へどうぞ!」
「あ、はい……」
黒いTシャツに、黒いエプロン。他の人よりも筋肉がついているのがTシャツ越しにも分かるような男性スタッフが数人。
そんな、少し男臭さを感じるここは……クリスマスイブには似合わない居酒屋だ。
「なんでここなの?」
「えー? いいじゃない。居酒屋」
お酒飲もうよ、とハル。
いつもはサラリーマンや若い男女で賑わう居酒屋も、流石に今日は空いている。
そりゃあそうだ。今日はクリスマスイブなんだから、みんなオシャレなカフェやレストランにでも行くのだろう。
「あ、私、これ!カルーアミルク!あとは枝豆と出し巻き卵ね」
「お酒大丈夫なの?」
「うん!多分!」
「あ、そう……」
付け足された『多分』という言葉が気になるけれど……まぁ、いいか。