あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
「かしこまりました。こちらお冷ですのでご自由にお飲みください。では、少々お待ちくださいませ」
「あ、はい。お願いします」
席から男性スタッフが離れていった。すると、それとほぼ入れ替わりでハルが戻ってきた。
「ただいま。注文しておいてくれた?」
「うん。しておいたよ。とりあえずお冷飲む? ……って、あれ」
さっきのスタッフさんが去る前に置いていった、プラスティック製の透明なコップと、ポットに入った水。
置いていった時には気づかなかったけれど、コップがひとつしかない。
「もうひとつコップ貰わないと……」
コップをもうひとつ貰おうと思い、少し腰を浮かせて右手を挙げようとした。しかし、ハルの手がそれを止めた。
「いいよ。敦くん。大丈夫。私お水いらないし」
「え、そう?」
「うん。だから敦くんだけお冷飲んでて」
「そっか。分かった」
一度頷き、コップとポットに手をかける。コップへ水を注ぎ込み、ごくごくと喉に水を流し込んだ。