あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。

ゆっくりと瞼を伏せて、再び瞼を開いた。ハルの瞳は、まだ揺れている。

ハルの、こんな動揺したような表情は初めて見る。


「私だけが、存在してない……か」


ハルは本当に生きていて、この世界に存在しているのか。

こんなことがあるのかと疑うより前に、もし、ハルが俺にしか見えていないとする。すると、全てのつじつまが合う。


一件目の、駅直結ビルにあったカフェ。

ハルのストレートティーとホットコーヒーを頼んだ時、女性スタッフさんが『お二つですか?』と聞いた後『お持ち帰りでしょうか?』と不思議そうに聞いてきたこと。

すぐそこの窓際の席にハルが座っているのが見えていなかったから、俺が一人で二つも飲むのかと不思議に思ったのではないだろうか。

二人で席に腰掛けて話している時。その時も、何故か俺だけ痛いくらいの視線を浴びた。

確かに、ハルが幽霊ではないか、なんてぶっ飛んだことを聞いた。だけど、今思えばそんなに大きな声で言ったつもりはないし、このクリスマスイブを過ごすカップル達が、わざわざ他人の一言に耳を傾けているわけもない。

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