あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
二件目に行った、デパート内のアパレルブランド店。
そこでも、俺は女性スタッフからの視線が気になっていた。
それだけじゃない。レジカウンターにスカートを持って行った時の会話。
『プレゼント用にされますか?』
『あ、いいえ。あそこにいる人にそのまま渡すので大丈夫です』
『え?』
後ろにいるハルの方を見て言った俺が、身体ごと前を向いて視線を戻すと、不思議そうに首を傾げていた女性スタッフ。
あれは、ハルが隠れてしまったから見えなかったのかと思っていた。
だけど、よく考えれば分かるじゃないか。俺たちは十数分売り場にいて、話していたんだ。しかも、その場所はレジカウンターから丸見えの場所だった。
今、ついさっき起こったことだってそうだ。
コップがひとつしかなかったこと。注文する時にハルが何やら慌ててお手洗いに行ったこと。
全部全部、違和感だらけじゃないか。
ハルがあまりにも自然に振る舞うから……いや、違う。
ハルが隣にいる事があまりにも嬉しくて、俺は気づかないふりをしていたのかもしれないな。
絶対に、気づかないように。気づいてしまわぬように。
俺が気づいたことで、大事な事を伝える前にハルが消えてしまわないように……って、そう思ってたんだ。
「……ハル。本当の事を教えて」
俺は……逃げない。
もう、逃げられない。