あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
一瞬、真っ暗になった視界。
痛みを堪えて立ち上がる。そして、誰にぶつかってしまったのかを確認しようとしたけれど……そこには誰もいない。
一人で電柱にぶつかったのか。ああ、格好悪い。
目の前の電柱に心の中で謝罪し、俺はまた走り出した。
電柱に当たった右肩がまだジーンとしている。でも、そんな事も気にしていられないくらい必死だった。ただただ、必死に走るしかなかった。
しばらく走り続けていると、クリスマスツリーが見えてくる。目的の場所が見えてきた事で走るスピードは更にぐんと上がり、あっという間にクリスマスツリーの前に立った。
「……59分、か」
駅前の時計柱を見た。俺は普段見る事のない秒針を目で追った。
秒針が、どんどん頂点である〝12〟を目指していく。
ドクン、ドクン、と高鳴る鼓動が止まらない。珍しく緊張している。
あと、3秒、2秒、1秒………。
「……来ない、か」
────ハルは、来ない。
いや、でも、ひょっとしたらもう少しで来るんじゃないか。
そんな希望を抱えて5分待った。だけど、やっぱりハルは来ない。
「……はは」
そうだ。ハルは、いつだって俺よりも先に来てたじゃないか。
デートをする時、女の子は遅れて登場するくらいでいいって言ったって、いつもずっと前から待っていた。
……ハルは、そういう女の子だった。