あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
「……ごめん」
そう呟いて笑ってみた。俺だけ、なんだか違う世界にいるような気がした。
周りのカップル達は、みんな幸せそうに笑っている。それなのに、俺だけは違うから。俺だけは、下手くそなつくり笑いを浮かべたから。
皆が幸せそうに笑っている、そんな、今日という世界。この世界に似合わないのは、きっと俺だけだ。
ああ、本当、嫌になるな。
一人寂しくクリスマスツリーに背を向けた。すると、そこにはとても懐かしい姿があった。
「何が『ごめん』なの? 敦(あつし)くん」
「え……」
目の前に立っていたのは、心の奥底でずっと会いたいと願っていた人。
もう、きっと、絶対に会う事はないと思っていた人だった。
「久しぶりだね」
そう言って笑った彼女の長い黒髪がふわりと揺れた。
「久しぶりって……どうして、ハルがここにいるの」
白いコートにチェックのスカート。モコモコとした白いマフラー。そしてブーツを履いている、俺に『ハル』と呼ばれた彼女。彼女は、現彼女とは別のハル。俺の元彼女である、ハルだ。
最後に会ったのは四年前で、もうこの世にいるはずのない彼女に俺の脳内はとても混乱していた。
この目の前に立っている彼女……ハルは、四年前に死んでしまったはず。
高校の3年間を共に恋人として過ごし、大学も一緒に行こうと約束していた。
しかし、高校の卒業旅行と称して彼女が行った家族旅行。その旅行帰りに、彼女の父が運転する車は事故にあった。
……酷い交通事故だったらしい。