あの時の恋にはさよならを、目の前の恋にはありったけの愛を。
「……ねえ、ハル」
「ん?」
ハルが、口元にカップの飲み口をつけたままで俺を見た。目を丸くして、若干の上目遣いのハル。そんな彼女に、俺は率直に問いかけた。
「……幽霊なの?」
もともと大きくて綺麗な瞳を、さらにくるりと大きくしたハル。そのままカップを口から離したハルは左手で口元を覆った。
「あはは!何言ってるの? 敦くん」
「え、いや……」
「私が幽霊だって? ふふふ。面白いことを言うようになったね」
あはは、と肩を大きく揺らして笑い続ける彼女の身体は透けてなんかいない。普通の人間と変わらない身体だ。
「ごめん……俺がおかしかったのかもしれない」
「あはははっ」
「もう、ハル、笑いすぎだって」
「んむむ!……ごめん、だって、あまりにも面白くて」
一向に笑い止まないハルの口を手のひらで塞いでやった。すると、ハルはやっと笑うことをやめた。
しかし、周りを見てみれば、痛いほどに集まっていた視線。
「ほら。ハルがそんなに笑うから」
……ああ、最悪だ。