婚約者は高校生



彼女はしばらく考えてから顔を上げた。

俺をまっすぐに見つめる真剣な瞳は涙に濡れてはいない。



「私はまだ多賀さんのことをあまり知りません。ですので、何が多賀さんのメリットになるのかわかりません」



正直だな。
苦し紛れに「私と婚約するなら会社の益になります」とでも言うかと思っていたのに。

とはいえ、期間限定では意味がないセリフだけどな。

そこはちゃんとわかっていたというわけか。

だけど悪いな。
何も見つけられないなら俺を引き留めることはできない。



「だったら仕方ない。俺には協力する理由がない」



俺は伝票を手にとると席を立つ。



「じゃ、気を付けて帰りなよ。社長令嬢さん」



少しばかりからかうような言い方に彼女は一瞬顔をしかめたものの、「はい」としっかりとした返事をした。


泣きついてくるわけでもみっともなく喚くわけでもない。

少なくとも彼女は男に依存するタイプではないようだ。

そういうタイプは嫌いではない。

しかし、もう会うことはないだろう。


俺は振り返ることなく、カフェを後にした。

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