魅惑な彼の策略にはまりました
うそ、赤くなんかなってない。
頬は熱いけれど、そんな子どもみたいな反応をするわけがない。こんな年になって、しかも相手は宗十郎で。

宗十郎がいよいよ楽しそうにささやく。


「俺でも十分、四季をドキドキさせられる。よし、やっぱり決めた」


悪戯に唇を横に引く宗十郎は、女子に人気があるだけある。雑誌モデルクラスの顔立ちを、そんな風に意地悪にゆがめたら、普通の若い子なんかイチコロで落ちてしまうだろう。


「見てろよ、おまえの恋する気持ちを俺が思い出させてやる」


「だから、どうしちゃったのよ、宗十郎」


妙に焦って、空気を変えようとする私に、宗十郎がぐっと顔を近づけた。

唇同士が触れ合いそうな近距離だ。
わずかなアルコールと、宗十郎のムスクの香り。表情なんか近すぎてよくわからない。


「俺が四季の恋を指南してやるよ」


何か答える前に、宗十郎は私を解放した。よろめく私の前を、先に立って歩きだす。

いつもの交差点で別れるまで、私たちはそれ以上会話をしなかった。

宗十郎の言葉も、無理やり上げられた心拍数も、まったく意味がわからなかった。



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