魅惑な彼の策略にはまりました
日当たりのいいサロンは品川駅から少し歩いたビルの8階にある。
広々としたフロアには、おしゃれな北欧家具の中でも、特に上質な一流メーカー製品が配置されてあった。

見ているだけでも楽しい。
それは宗十郎の美意識的にも同じようで、歩いて回りながら、私たちは真剣に吟味した。
いつもの軽口をまぜながら、まるで共同の事務所にどんな家具を置くか相談しているビジネスパートナーのように。


ショールームの見学はほんの1時間ほどで終わり、昼時を過ぎた街に私たちは歩き出した。
この後の予定は何も決まっていない。

所在ないというほど気まずくもないけれど、何か言わなければならないような強迫観念。

ふと、ビルの隙間に小さな黒板が出ている。
細い路地を覗くとこじんまりしたパン屋が見えた。
良い香りが私たちの元にまで漂ってくる。


「パン買わない?」


宗十郎が先に言いだした。
異議なしだ。


私たちはパン屋でサンドイッチやバケットを買い、近くのコンビニでコーヒーも買った。

スマホのマップで調べると小さな緑地が路地裏にあるらしい。

運良くベンチもあり、遅い昼食はお日様の下で摂ることとなった。
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