さくらおと、かぜいろ。
読み切り(短編)
桜が綺麗な季節ですね。
それが最初のあなたの言葉でしたね。
だからまさか、あなたが光のない世界で生きているなんて、思いもしませんでした。
「えぇ、空も澄み切った青色で」そう言った私に、考えてみれば同意の返事はなく。
けれど「風も気持ちよくて」という返事に違和感を感じる訳でもなく。
直視できるはずのない太陽を見上げるあなたの瞳は、透き通った川のように澄んでいて、どこまでも続く海のように深くて、鏡のように太陽をキラキラ反射していて、私はただ何を考えるでもなくあなたに吸い込まれる気分でした。
運命なんてものが本当にあれば、これがまさにそれなのではないかと、直感したのでした。
ある日突然出逢ったあなたなのに、それ以降はいつも三条橋の丘の上にいたので、私たちは毎日顔を合わせることができましたね。
そして、そんな美しい瞳をしたあなたに、私はある日告白のつもりで意を決して言いました。
「あなたの見ているもの、それを私も同じように見たい」って。
するとあなたのその瞳が一瞬闇に呑まれて、でもそれは幻だったと思うほど一瞬で、すぐにあなたは清々しい顔をしてまたいつものように太陽を見上げ。
そして深呼吸をするように私に言いました。
「僕は目が見えないんだ。僕の目は見えていないんだよ。」
「えっ…」と言ったのは、私の心の中だけだったのか、本当に口から出たのか、それは今でもわかりません。
今まで色んなものの形や色について、ほとんど共感してくれなかったことや、常識で皆が知っているありきたりな返事しかしなかったこと、こんなに綺麗な瞳なのに私を見つめてくれたことがないこと、そんなことに筋が通ってガテンがいったのはもうしばらくしてからのことでした。
驚きはあったものの、私の気持ちは変わらなかったから。
とにかくまず確かなことは、あなたの事実を知った瞬間、私に見えている景色がなお一層色鮮やかになったということ。
それが私の中での答えだったのだと思います。
私があなたの見ている世界を見れなくても、あなたが私の見ている世界を見れなくても、2人で同じものを感じたい。
私は目をつぶり、言いました。
「ねぇ、あなたは今なにを感じているの?」
あなたはふふっと笑って、「僕と同じものが見たいんだろ?見えるよ。」
さらさらと流れてくる川の水面、カエルの鳴き声、花菖蒲の香り、そして君の声…。
あなたにはあなたの中で1枚の写真のようになって全てが見えているのだと。
聞こえているものや、香りが、あなたには見えるのだと教えてくれました。
「君にはなにが見えている?君の見ているものを僕も見たいな。」
私は赤面した顔があなたに見えないのをいいことに、私の瞳に映るあなたの瞳がどれだけ美しいかを語りました。
それが私が見ているものだと。
そしたらあなたに笑いながら、「それはもし僕の目が見えていても見れないじゃないか」と指摘され、2人で笑いました。
あれから気づけば20年。
「桜の綺麗な季節になったね。」
「えぇ、ほんとに。空も澄んだ青色ですよ。」
「風もあの日のように気持ちいいな。」
「あなた、桜は何色だか知ってます?」
「ピンク色だろ?」
「そうですねぇ、間違いではないけれど、桜は桜色です。」
「優しい色だろうなぁ。」
「じゃあ風は何色なんですか?」
「え、風の色?」
「はい、あなたに見えている風の色。」
「温かく涼しく僕を包み込む、君に似た色だよ。」
「そうですか。」
私たちは形にとらわれずあらゆるものにぬりえをするように色をつけながら、しわくちゃの手を握り合っていました。
それが最初のあなたの言葉でしたね。
だからまさか、あなたが光のない世界で生きているなんて、思いもしませんでした。
「えぇ、空も澄み切った青色で」そう言った私に、考えてみれば同意の返事はなく。
けれど「風も気持ちよくて」という返事に違和感を感じる訳でもなく。
直視できるはずのない太陽を見上げるあなたの瞳は、透き通った川のように澄んでいて、どこまでも続く海のように深くて、鏡のように太陽をキラキラ反射していて、私はただ何を考えるでもなくあなたに吸い込まれる気分でした。
運命なんてものが本当にあれば、これがまさにそれなのではないかと、直感したのでした。
ある日突然出逢ったあなたなのに、それ以降はいつも三条橋の丘の上にいたので、私たちは毎日顔を合わせることができましたね。
そして、そんな美しい瞳をしたあなたに、私はある日告白のつもりで意を決して言いました。
「あなたの見ているもの、それを私も同じように見たい」って。
するとあなたのその瞳が一瞬闇に呑まれて、でもそれは幻だったと思うほど一瞬で、すぐにあなたは清々しい顔をしてまたいつものように太陽を見上げ。
そして深呼吸をするように私に言いました。
「僕は目が見えないんだ。僕の目は見えていないんだよ。」
「えっ…」と言ったのは、私の心の中だけだったのか、本当に口から出たのか、それは今でもわかりません。
今まで色んなものの形や色について、ほとんど共感してくれなかったことや、常識で皆が知っているありきたりな返事しかしなかったこと、こんなに綺麗な瞳なのに私を見つめてくれたことがないこと、そんなことに筋が通ってガテンがいったのはもうしばらくしてからのことでした。
驚きはあったものの、私の気持ちは変わらなかったから。
とにかくまず確かなことは、あなたの事実を知った瞬間、私に見えている景色がなお一層色鮮やかになったということ。
それが私の中での答えだったのだと思います。
私があなたの見ている世界を見れなくても、あなたが私の見ている世界を見れなくても、2人で同じものを感じたい。
私は目をつぶり、言いました。
「ねぇ、あなたは今なにを感じているの?」
あなたはふふっと笑って、「僕と同じものが見たいんだろ?見えるよ。」
さらさらと流れてくる川の水面、カエルの鳴き声、花菖蒲の香り、そして君の声…。
あなたにはあなたの中で1枚の写真のようになって全てが見えているのだと。
聞こえているものや、香りが、あなたには見えるのだと教えてくれました。
「君にはなにが見えている?君の見ているものを僕も見たいな。」
私は赤面した顔があなたに見えないのをいいことに、私の瞳に映るあなたの瞳がどれだけ美しいかを語りました。
それが私が見ているものだと。
そしたらあなたに笑いながら、「それはもし僕の目が見えていても見れないじゃないか」と指摘され、2人で笑いました。
あれから気づけば20年。
「桜の綺麗な季節になったね。」
「えぇ、ほんとに。空も澄んだ青色ですよ。」
「風もあの日のように気持ちいいな。」
「あなた、桜は何色だか知ってます?」
「ピンク色だろ?」
「そうですねぇ、間違いではないけれど、桜は桜色です。」
「優しい色だろうなぁ。」
「じゃあ風は何色なんですか?」
「え、風の色?」
「はい、あなたに見えている風の色。」
「温かく涼しく僕を包み込む、君に似た色だよ。」
「そうですか。」
私たちは形にとらわれずあらゆるものにぬりえをするように色をつけながら、しわくちゃの手を握り合っていました。