クレーマー
2コールも待たないうちに果歩が電話に出た。


あたしからの電話には1コールで出ろと命令しているから、今も果歩はそれに従っているのだ。


その忠実さが保たれている事を確認して、ひとまずホッと安心する。


『はい、なにかご用でしょうか?』


電話口から果歩の緊張した声が聞こえて来る。


「BBCの新しいシングルを買ってきて。今すぐに」


あたしはそれだけ言うと、強制的に電話を切った。


BBCというのは今人気の男性アイドルグループで、シングルの発売は一週間後の予定だった。


当然、果歩は買ってくることができない。


不可能な命令に果歩がどう対応するか確認するために無茶な事を言ったのだ。


あたしは再び部屋の中をぐるぐると歩き回り、周囲で起こりはじめている異変にいらだちを募らせたのだった。
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