クレーマー
信用できない
クレームを入れている最中だって時給は発生しているんだから、我慢してればいいだけじゃん。


そんな考え方に今更後悔している自分がいる。


店員はストレス発散の道具ではない。


同じ人間だ。


嫌なことをされれば嫌だと感じるし、優しくされれば嬉しくもなる。


「くそ……!」


あたしは朝食も取らずに家を出た。


昨日の自転車から逃げるため、いつもより早い時間に学校へ向かう。


「なんであたしが逃げなきゃいけないんだよ……」


ブツブツと文句を言いながら大股で歩いて行く。


あの夢を見てから徐々に苛立ちが増していき、自然と表情は険しくなっていた。


コンビニの前を通り過ぎる瞬間、仮面の人たちが蘇ってきた。


実際の店員たちも陰ではあんな風にあたしの事を笑っていたのだろうか。


面倒くさいからとりあえず謝っておこう。


その程度の気持ちで頭を下げて、奥では店員同士で陰口を叩いていたのだろうか。


考えれば考えるほど腹が立ち、後ろから自転車が近づいてきていることにも気が付かなかった。


自転車が通り過ぎる瞬間、右腕に痛みを感じた。


「いっ……!?」


咄嗟に立ち止まり、条件反射のように腕を押さえる。


自転車がわざとベルを鳴らして走り去っていく。


あたしはその後ろ姿を睨み付け、そしてそっと右腕を確認した。


右腕は丸く膨れている部分があり、それは徐々に赤く変化していった。


「タバコか……」


あたしはギリッと歯を噛みしめた。


油断していたのは自分だが、どんどんエスカレートしていっている。


あたしはチッと小さく舌打ちをして、コンビニのトイレへと駆け込んだのだった。
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