クレーマー
そのなんでもないような光景に、嬉しさが込み上げて来た。


思えば明彦とのデートも2週間前からしていなかったんだっけ。


明彦は何度か誘ってきたのだけれど、テスト期間中にデートなんてもっての他だと言って断っていたのだ。


テスト中は頭が一杯で気が付かなかったけれど、あたし自身少し寂しい想いをしていたのだということに気が付いた。


「お、おはよう」


私服姿の明彦を見るのも久しぶりの事で、なんだか照れてしまう。


家を出て2人で歩いていると、明彦が手を繋いで来た。


指先に触れたぬくもりに心臓がドキッと跳ねる。


「なんだか、少し恥ずかしいな」


手を繋ぎながらも、明彦はそう言って頭をかいた。


「え?」


「こうして歩くの久しぶりだろ? 今日の知世は相変わらず可愛いし、なんか照れる」


そんな事を言われたらこっちまで照れてしまう。


あたしは思わず目を伏せた。


その時だった明彦が何か思い出したように立ち止まり、ズボンのポケットに手を入れた。
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