野良猫は膝の上で眠る
「あれ?起きた。」
開かれた目はとても綺麗だった。
いや、目だけじゃない。全部綺麗でカッコイイ人。
「なんで助けたの。」
でも口をついて出たのはこんな言葉。
普通なら命の恩人にこんなことは言わないけどあいにく私は普通じゃない。
「俺は捨ててあったのを拾っただけ。それにこれから死ぬ人が辛そうに泣いたりしない。」
「泣いてなんかない。」
まるで泣いた後のようなひきつる頬を無視していいきる。
すると頬に伸びてきた手。
全部知ってるような目が怖くなって、ベッドから逃げる。
「警戒心の強い猫みたい。」
壁にヘナヘナと背をついて逃げ場をなくした私をいきなり抱きしめる。
「怖くない、怖くない。」
子供をあやすような声で馬鹿にされている気がした。でも凄く安心した。
涙が、
こぼれた。
男の人にしては細い腕から伝わる温もりは、私がずっと、ずっと欲しかった温もりだった。
いつの間にか自分も抱きしめ返していた。
「やっぱりすずはかわいい。」
久しぶりに他人に呼ばれた名前。
なんで知っているのかわからない。