【眠らない森】短編
Ⅲ
ーーーー完璧な赤となる。
老婆は僕の手を取るとそのまま自分の首元へと持っていった。
僕の両手は老婆の首へと這わされ、それはとてもか細いものだった。
腕に自信のない僕でも容易く締めることが出来るだろう。
ーーーどうして?僕が埋められるのではないのですか?だってあなたの手は、
僕は老婆の首に手を掛けたまま聞いてみた。
てっきり僕は彼女の赤く染まったその手により命を落とす事となるのだろうと悟ったから。数秒前までは。
そして、僕は現実の世界とこっちの世界とがもう区別もつかなくなりつつあると言うのにこの期に及んで「死」と言うものに恐怖を抱く自分自身にとても落胆していた。
ーーー私もね、そろそろ眠りたいのよ。
静かに老婆は言った。と同時に僕の手に自分の手を重ねると少しずつ力を入れ締め出した。
ーーー何をするんです。止めましょう。僕はこんな事したくはありません。
何とか老婆の首元から手を離そうとするのに信じられないくらいの力で老婆は僕の手を押さえ込んでいた。