恋する気持ち。
少し行ってから振り向くと、すずも二次会のカラオケに向かって歩き出していた。
私はポケットからケータイを取り出すと、発信履歴にのっている、『須賀 伊織』という表示を見つめる。


うーん。どうしよう。
かけるか、かけないか。
正直、電車はキツいし。
でもなぁ。
これで、電話するのもなぁ……
うーん。。。


なんてケータイのディスプレイを眺めながら一人、ブツブツ言いながら考えていると
後ろから肩を叩かれる。


「なに一人でブツブツ言ってるんだよ。」



「山井さん……」



そこには山井さんが立っていて、いつもと変わらず優しく微笑んでいた。

「美波、帰るのか?タクシー、拾ってやろうか?」


「あっはい。えーと、どうしようかな。」


「あぁそっか。彼氏が迎えに来るか。」


「違いますよ!彼氏なんていないですもん。」


なんていうか、須賀は『彼氏』っていうのとはちょっと違うよね。


「……この前の男は彼氏じゃないの?」


「ち、違いますけど……」


山井さんが私に近づき、背中に手を回しそっと撫でる。


その瞬間、山井さんに対して今までに感じたことのない嫌悪感を抱く。


「じゃあ、送るよ。」


山井さんはそう言って、いつもと同じように微笑むのだけれど、どうしてかいつものように優しさを感じない。

むしろ感じるのは、漠然とした恐怖。


なんとなく、山井さんが恐い。



そう感じた。
















< 33 / 55 >

この作品をシェア

pagetop