恋する気持ち。
「ちょっと前くらいから、なんとなくスレ違いっていうか、溝っていうか。お互いの間に距離があったんだ。」


突然の山井さんの告白に私は動揺しながらも後ろをついていく。


「まだどちらも、ハッキリとは言わないけど、このままやっていけるとも、お互い思ってないんだ。それに………」


山井さんはそこまで言うと振り返る。


「俺には他に気になる人が出来てしまったんだ。もう人を好きになることはないと思っていたのに……」


山井さんが私の目をじっと見つめるから、私も山井さんから目をはずせない。

まさか。
とは思っているけれど、
ひょっとして。
とも思う。騒ぎ出す私の心臓。


「美波が好きだよ。それに………美波も俺への気持ちが少しくらいあるんじゃないかって思ってる。」


「あの、私、私は………」


確かに憧れていた。でもそれが、異性としての憧れなのか、そんな事は考えた事がない。


山井さんが私の手をギュッと握る。


「この前は正直焦ったよ。美波の近くに他の男がいて。渡したくないって思った。」



山井さんが私の髪を撫でる。
私はそれを止める事もなく、どこかボーッとしていた。


「………今日、妻は実家に帰ってていないんだ。なぁ、美波。今夜はずっと一緒にいてくれないか。なにもしない。ただ話を聞いてほしい。」


そう言って山井さんは私の手をひっぱり、抱きしめた。



いや。正確には、



抱きしめようとした。


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