恋する気持ち。
須賀は何も答えずに私の手をひっぱりながら歩き出す。


そして、通りかかった空車のタクシーを停めると私を車内に押し込んだ。


「……自分ちの住所くらい言えるだろ?」

そう言って財布から一万円札を抜き取るとタクシーの運転手に渡す。


「おつりはいらないので。お願いします。」


そう言ってさっさっと、ドアを閉めるよう合図する。


私は閉められたドアから須賀に向かって呼び掛けるけど須賀はなんの反応もせず、歩いていってしまった。


困った顔をしたタクシーの運転手とバックミラー越しに目が合い、私は仕方なく自宅の住所を告げる。


走り出すタクシー。


混乱する頭と気持ち。


なんで?
なんで何も言ってくれないの?
あーもー!山井さんだって、あんな人だって思わなかった!
………みんなは気づいてたのに。私ってほんと見る目がないな。

須賀。怒ったのかな?
あきれたのかな?
山井さんの前で、気持ちを言うことができなかったからなぁ………



窓の外を眺めながら、私は手で頬を拭う。



私、山井さんがあんな人だったってことよりも、須賀に無視される方がよっぽどつらいよ…………
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