オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2
自宅に帰った愛美は、一人でお酒でも飲もうかと冷蔵庫を開けたけれど、とてもそんな気分にはなれずミネラルウォーターで喉の渇きを癒した。

住み慣れたはずの一人暮らしの部屋は、やけに広く静かに感じられた。

祝ってもらいたい人のいない誕生日は、いつもと変わりなく時間が過ぎていく。

今頃きっと“政弘さん”は恋人の誕生日も忘れて、緒川支部長の顔で職員たちに囲まれ、佐藤さんと一緒に二次会に参加しているはずだ。

(もう子供じゃないんだし、誕生日祝ってもらうような歳でもないか…。お風呂入ってさっさと寝ちゃおう…。)


バスタブにお湯を張って、いつもは使わないバスソルトを入れた。

花の香りのする淡いピンク色のお湯に体を浸して目を閉じた。

(ひとりぼっちの誕生日か…。)

贅沢なんてしなくてもいい。

プレゼントも何もいらない。

ただ“政弘さん”がここにいて、大好きだよと笑ってくれたら、それだけで良かったのに。

(誕生日を忘れちゃうくらい、私の事なんかどうでも良くなっちゃったのかな…。)

じわりと浮かんで溢れた涙が頬を伝い、ピンク色のお湯の中にポトリと落ちた。


“愛美にとって…俺ってなんなの?”


不意に“政弘さん”の言葉が脳裏を掠めた。

(なんなの?って…なんでわかんないの?っていうか、逆に聞きたいくらいだよ…。今の私、政弘さんのなんなの?)

仕事中の彼は嫌いだと思っていたはずなのに、緒川支部長が佐藤さんと一緒にいるところを見て、不安になったり嫉妬したりした。

上司と部下なのだから、どんなに無茶な仕事を押し付けられて腹が立っても、仕事だから仕方ないと割り切れる。

だけど仕事中であっても、避けられたり嫌われたりするのは、つらい。

どんなを格好していても、彼が“政弘さん”である事は確かなのだから。




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