オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2
部屋に入ると、愛美は困惑しながらも、とりあえず温かいコーヒーでも淹れようとキッチンに立った。

“政弘さん”はラグの上に座り、所在なさげにうつむいている。

愛美はキッチンからその様子を窺いながら、頭の中を整理しようとした。

(えーっと…私、健太郎と結婚するの?しかも健太郎の子を妊娠してるって?)

健太郎と再会してからの記憶をかき集めると、“政弘さん”が誤解している理由はなんとなくわかった。

足を捻挫した時に、健太郎がふざけて“責任を取る”と言った。

足を捻挫したから健太郎に連れられて病院に行っただけなのに、話が大きく飛躍して産婦人科に連れて行かれた事になり、愛美が健太郎の子を妊娠したから、健太郎が責任を取って結婚するという話になっているのだろう。

噂の出所は、あの時そばにいて声を掛けてきた第一支部の職員に間違いない。

(勘違いが背ヒレ尾ヒレつけて、どえらいことになっちゃってるよ…。)

どこでそんな噂を耳にしたのか、“政弘さん”は疑いもせず、その噂を信じているようだ。

“政弘さん”は愛美と健太郎の仲を怪しんでいたし、最近話をしていなかった。

(健太郎とは幼馴染みだって言ったのに。…って言うか、試すのやめるって何?私、試されてたの?私の事、信じてないのかなぁ…。)

“政弘さん”が試すのなら、自分もちょっと試してみようか。

職場で露骨に避けられ、佐藤さんと仲良さげにしている所を見せ付けられた仕返しくらいしても、きっと許されるはずだ。

愛美の胸に、ほんの小さな復讐心がむくむくとわき上がる。

愛美は冷蔵庫から牛乳を取り出し、小鍋に注いで温め始めた。



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