オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2
「俺、ずっと気になってたんだけどさ…。」

「なんですか?」

愛美はちょっと高いしゃぶしゃぶ用の豚肉を菜箸で摘まんで、鍋の中の出汁にくぐらせる。

「愛美はなんでずっと、俺の事、“さん”付けで呼んで敬語で話すの?」

よほど意外な質問だったのか、愛美は菜箸を持ったままポカンとしている。

「そこ、ずっと気になるほど重要ですか?」

「重要…って言うか、気になって。普通さ、付き合いだすと名前呼び捨てにしたり、愛称で呼んだりしない?それに、歳が離れてても敬語じゃなくなると思うんだけど。」

愛美は色が変わって食べ頃になった豚肉を“政弘さん”の器に入れて、またパックから豚肉をつまみ上げた。

「あまり深く考えた事はないんです。でも、私にとってはそれが自然と言うか…。」

鍋の中で豚肉は少しずつ白っぽくなっていく。

「元々は上司だからって言うのも少しはあるかも知れないけど…私は政弘さんの事、呼び捨てにしたいとか思った事はないし、敬語も自然に出てくるだけで…政弘さんがそんな事を気にしてるとは、思いもしませんでした。」

「俺が歳上だから遠慮してる?」

愛美は手を止めて少し考える。

「そんな事はないですけど…別の呼び方で呼んだ方がいいですか?例えば…ひろくんとか?」

「…っ!!なんで知ってるの?!」

「前に支部にいた時、佐藤さんがそう呼んでるのが聞こえたので。」

愛美は淡々とした口調でそう言って、グラスのビールを飲み干した。


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