オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2
そして豚肉をまた鍋の出汁にくぐらせ、食べ頃になると“政弘さん”の器に入れて笑った。

「ひろくん、一緒に食べると美味しいね。もっといっぱい食べて、お肉もまだまだたくさんあるよ。私、新しいビール出してくるね。」

昔の彼女に呼ばれていた“ひろくん”という呼び方で愛美に呼ばれ、今までに聞いた事のない言葉遣いで話し掛けられて、“政弘さん”は思いきり顔を引きつらせた。

愛美は何食わぬ顔をして立ち上がり、冷蔵庫にビールを取りに行く。

(なんだこれ…罰ゲームか?愛美、めちゃくちゃ怖いんだけど!!)

「ひろくん、どうしたの?」

固まっている“政弘さん”に愛美が尋ねる。

「あの…ひろくんってやめない?普通に政弘でいいんだけど…。」

「じゃあ…政弘、ビールついであげる。グラス空けて。」

愛美に促され、“政弘さん”はビールを飲む。

(あ…あれ…?なんか違和感…。)

グラスを差し出すと、愛美は冷たいビールをグラスに注いだ。

「政弘。」

「…ハイ?」

「政弘。」

「……ハイ?」

(なんだ、一体?!)

愛美が少しうつむき加減に、自分のグラスにビールを注いだ。

「政弘って呼べば、安心できる?」

「えっ?」

「私が敬語やめて政弘って呼べば、他の人よりずっと好きだって、特別なんだって、わかってくれる?甘えられないとか安心して頼れないとか、そんなふうに思ってないってわかってくれる?」

「あ…。」

(俺が前に言った事、気にしてたのか…?)


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