青と口笛に寄せられて


観光案内所の人に話を聞くと、犬ゾリ体験はいつも午前から午後にかけてやっているから、今日はもう夕方だしやってないと思う、という回答を得た。
犬ゾリをしたくて問い合わせたわけではないのだけれど、事情が事情なだけに詳しく話すのも気が引ける。


「じゃあ明日か……」


ボソッとつぶやいた私に、歩美が申し訳なさそうに顔をしかめた。


「あのさ、深雪……。明日行きたいのは山々だけど、私たち、明日のお昼の飛行機で東京に帰るんだよ?犬ゾリやってる場合じゃなくない?」

「え!あ!そっか!しまった!」


うっかりしていた。
歩美の休みに合わせて明日帰らなければいけなかったのだ。
しかも今いる場所は札幌までバスで4時間もかかる。
明日ということになると、それは無理に等しい。


「お礼状でも書いておけばいいんじゃない?」

「うん、そうだね」


私と歩美が観光案内所を出ると、ちょうど停留所にバスが来たところだった。
それを見つけて、歩美は私を手招きした。


「タイミングいいじゃん!行こ、深雪」


うなずきかけた時、後方で「ワン!」という犬の鳴き声がした。
ビックリして振り返ると、夕暮れの雪景色の中に1頭の犬が舌を出してこちらを見ていた。


あれは……さっきの犬かな。
確か「カイ」って呼ばれていたような……。


カイの横に、1人の男性が立っている。
背はそんなに高くないけど、私を助けてくれた人と同じ色のダウンジャケットを着ている。
短い黒髪で、40歳くらいの中年の男性。
ネックウォーマーはつけておらず、顔がはっきり見えた。
癒し系という言葉がぴったりの優しい顔立ちをしていた。


あの人が私を助けてくれた人?


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