青と口笛に寄せられて
5 アクの強い3人の男たち。
ザザッとソリが雪の上を滑る。
その音がこれまた心地よくて、さらに言うと全身に伝わる振動も心地いい。
朝特有の冷え切って澄んだ風が微かに露出した頬を撫でる。
寒い。寒いけど、気持ちがいい。
4頭の犬たちがハッハッと息遣いを荒くしながら真っ直ぐ走る。
そのお尻が可愛くてたまらない。
頑張れ、頑張れ、って言いたくなる。
「ジー!」って指示すると右に曲がる。
ゆっくりと右に体を傾けて遠心力に負けないようにする。
もう体重移動もお手のものだ。
これだけ聞き分けがよくて、私みたいな素人でも、観光客のみなさんでも、ちゃんと言うことを聞く犬たち。
基本的なしつけはもちろん、犬ゾリに関してのしつけもほとんど啓さんがやっているというから驚きだ。
以前は泰助さんと2人でやっていたらしいけど。
本当に好きじゃなきゃ出来ない仕事。
それを生き生きとこなす彼は、私にはまぶしい。
ただただ流されるように生きてきた私とは違う。
旅行でここに立ち寄って、犬ゾリを体験できてよかった。
大切なことに出会えたから。
北海道という土地の素晴らしさとか、犬がどれだけ可愛いかとか、犬ゾリの疾走感とか、啓さんがやたらと輝いて見えることとか……。
あぁ、いかんいかん。
啓さんのことは考えちゃダメ。
ハンドルをギュッと掴んでブンブン頭を振った。
彼には麗奈さんがいるじゃない。
彼女がいるのに間に割って入るなんて出来っこないし、私ごときの存在で2人の関係が変わるとも思えないし。
万が一変わったとしたら、それは前に働いてた会社の後輩の山田と同じことをしたことになるんだ。
だから、絶対そんなのあってはいけない。
好きだと自覚したところで、私のほのかな恋心は終了ってことだ。