青と口笛に寄せられて


遠ざかりたいのに、そうはさせてくれないのが啓さん。
私たちを見つけたのか追いかけてきた。
と、いうか。
用があったのは政さんに、らしい。


「おい、政!ダウン返せ!」

「あ、ヤバッ」


政さんは素早く青いダウンジャケットを脱ぐと、爽やかな笑顔でハイと彼に渡す。


「いやー、あったかいんだわ。啓のダウン」

「勘弁してくれよ、お前のペラいジャケットじゃ凍死するわ」

「ヒートテックの極暖三枚重ねしてみ?そんでそのジャケット着たらスタイリッシュだよ?」

「…………スタイリッシュとかどうでもいい」


啓さんは真っ赤な政さんのジャケットを脱いで、2人でお互いのアウターを交換する。
いつも青いダウンで見慣れていた啓さんの印象は、赤を着るとまた違っていていい。
口には出しませんけども。


素手のままの政さんの手に目を向けた啓さんが、不思議そうに眉を寄せる。


「見るからに寒そうだわ。手袋はけばいいしょ」

「昨日指先破れちゃったの。いいよ、深雪ちゃんにあっためてもらっから!」


あはは、と笑う政さんにぐいっと不意に肩を抱かれて、私は固まる。
こういう時の対応には全く慣れていない。
そんな彼の顔に、ベシッと手袋が投げられた。
啓さんが自分の手袋を彼によこしたらしい。


「それでもはいとけ」

「やっさしー!サンキュー!」


嬉しそうに手袋をつける政さんの隣で、私が啓さんをチラリと見ると目が合った。
でも、彼は何も言うことなく再び麗奈さんの元へ行ってしまった。


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