青と口笛に寄せられて


「よりにもよって相手は山田だし。思い出すのも嫌なんだけど」


仕事はちっとも出来ないけど、若くて可愛くて胸が大きい、山田えりか。
彼女と付き合ってしまえばよかったのに、この怜の様子じゃそこまで至らなかったらしい。
浮気は所詮浮気ってことなのか。


「ここまでせっかく来たのに……、そんな無下に断らなくても……」


ガックリ落ち込んだ怜は、素手で足元の雪をすくって雪玉を作りながら口を尖らせた。
拗ねるところじゃないぞ!


「仕方ないでしょ?その気は無いんだから、断るしかないじゃない」

「北海道まで追いかけてきた俺の情熱は!?」

「知らないもんっ!いなくなってから気づいたってもう遅いよ!私、他に好きな人出来たし!」


情熱だのなんだの振りかざされても今さらなびいたりしない!と、断固とした思いで怜に言ってやった。


「犬ゾリにハマって、北海道にハマって、好きな人もいる。だから私はここにいるの。もうやり直す気もないし、来てくれたのに悪いけど、この気持ちは変える気は無いんだよ」

「…………好きな人、か。そっか……」


さすがの怜もそれ以上は何も言えなくなったらしい。
作った雪玉をポンと上に投げて、それはボトッと地面に落ちた。
そして、彼は顔を上げて何故か私の後ろを見やった。


「あ、もう移動する時間ですか?」


え?誰に言ってんのよ?
外には私と怜しかいないはずでしょ?


と、ぐるっと後ろを振り返ると。


啓さんが、少し驚いたような顔をして立っていた。


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