青と口笛に寄せられて
昼食で余ったパンを犬たちにおやつ代わりにあげている啓さんの後ろ姿を見て、なんだか胸が締め付けられるような気持ちになった。
彼は私と怜のことをどう思っているのだろう。
ちゃんと元彼とも縁を切れない温い女だとでも思われてしまったかな。
ロッジに戻ろうとする私の背後で、怜がわざとらしく聞こえるようにつぶやいた。
「こんな田舎のどこがいいんだよ。犬臭いしコンビニも近くにないし、札幌まで4時間以上かかるのに。つまんない女になったな」
「…………ちょっと」
ザワッと全身の血が騒いで、怒りが込み上げる。
あまり心から怒ったことのない私でも、さすがにヤツのつぶやきを聞き流せるほど大人ではなかった。
勢いよく振り返り、怜の体を力一杯押してやった。
ドンッと雪の上に尻もちをついた彼はなにがなんだか分からない顔でポカンと口を開けている。
「この…………、浮気男っ!!」
風が出てきて、雪もチラついてきて。
寒さに磨きがかかってきたような気候の中で、私はそばにあった雪かきスコップを手に取った。
「何が悪いのよ、田舎の!犬だってちゃんとしたエサを作って食べさせてるから臭くない!嗅いでみろっ!コンビニなんか無くたって生きていける!あんたみたいなのがいるような会社に比べたらここは天国なんだからっ!」
「お、おいおい、そんなに怒ることないだろ……。スコップで殴るのだけは止めてくれよ…………」
「うるさいってば!なんであんたみたいなのと付き合ってたのか、自分が恥ずかしい!あんたなんか山田とどこにでも行っちまえ!!」
「だからえりかちゃんには振られたんだってぇ〜」
「ざまーみろ!!」
スコップを手に取ったものの、それでヤツの頭を殴るという行為には理性が働いて至れず、結局無意味に持っているだけだった。
でも喉が枯れるほど叫ぶように文句を吐き捨ててしまった。