青と口笛に寄せられて
「深雪」
すぐそばで、この場には相応しくないほどに冷静な啓さんの声がして私は我に返った。
ゆっくり横を見ると、さっき犬たちのところにいたはずの啓さんが私の隣まで来ていた。
彼はネックゲイターを顎の下まで下げていて、表情がよく見えた。
笑っている。何故?
「お疲れさん。そろそろ処刑の時間だ」
「しょ、処刑……?」
目をパチクリ瞬かせる私の手から、スコップをするりと抜き取った啓さんが視線を外してロッジの方を見やる。
ちょうど政さんが出てきたところだった。
「どーれ。行きましょうかね」
政さんは黒いニット帽を目深にかぶり、ゴーグルをつけ、ネックゲイターできっちり口元を隠していた。
真っ赤なジャケットから手袋を取り出して身につけると、私の足元に尻もちをついたまま固まっている怜の手を取った。
怜は「え?え?え?」と誰に問いかけるでもなくひたすら「え?」を繰り返して、政さんに手を引かれるままに歩かされる。
「吹雪いてきたな。気をつけて行ってこいよ、政」
「あいよぉ」
政さんは啓さんと短いやり取りをして、いつの間にか用意していたらしい犬ゾリに乗り込む。
犬は6頭。
すでに走る気満々でキラキラした目を政さんに向けている。
そのソリのバスケット部分に放り込まれた怜が、
「お兄さん、今からどこか行くんですか?」
と政さんに聞いていた。
「そうなんですよ〜!今から地獄に行きますからね〜!しっかり掴まっててくださいね〜、ハイク!」
いつもの明るい口調で答えつつ、政さんは犬たちに指示を出した。
ザザッと音がして犬たちが走り出した。