青と口笛に寄せられて
怜の姿が完全に消えてから、政さんが1日の疲れを取るように大きく背伸びをした。
「あー、悪霊退散!スッキリしたべ、深雪ちゃん。あんな奴のことはもう忘れてさ!新しい恋に生きないとね!」
軽く励ます程度にそう言ったつもりなんだろう。
それはもちろん私にも十分伝わってきていたので、「そうですね」と話を合わせてうなずいていたら、横から啓さんが口を挟んだ。
「深雪の新しい恋なら始まってるらしいよ、政。本人は諦めるとかなんとか言ってたけど……」
「ちょ、ちょっと啓さん!」
「ほぉ〜」
なんでもかんでも誰にでも話すのは止めてほしい。
慌てて私が止めようとすると、既にしっかり聞いてしまった政さんが興味深げにニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「なんで諦めちゃうの〜、もったいないよ〜」
「彼女持ちなんです、その人が!」
「え?彼女?何言ってんの、深雪ちゃん」
茶化したような口調だったはずの政さんが一変して深刻な顔になる。
眉を寄せて、納得のいかない顔で私に詰め寄ってきた。
「ちゃんと本人に確認した?聞いたの?」
「あの、政さーん。大丈夫です、知ってますから〜」
私たちの会話はどこかおかしい。
食い違ってるっていうか、噛み合わない。
彼と数秒間見つめ合っていると、政さんは勝手に1人で手を叩いて納得し始めた。
「あぁ、そうか!なるほどね〜。どこでそう思ったかは分からないけど、ふむふむ、分かったぞ〜」
政さんはひとり言をつぶやいて、私のすぐそばまで近づいてきた。
そして、そのまま顔を寄せてくる。
耳元で、私だけに聞こえる声で言った。
「深雪ちゃん、啓とうまく行くように協力してあげっから!」
なんてこった!
これは啓さんへの気持ちが気づかれているじゃないか!
目を大きく見開いてあまりにも近い距離の政さんをこれでもかというくらい凝視した。
彼は楽しそうに笑っている。