青と口笛に寄せられて


政さんはカウンターの向こうにいる裕美さんに聞こえるように、声を張り上げて話しかけた。
その顔はなにやら企んでいるようだ。


「そういうことで、裕美さん!啓と深雪ちゃんの休みは一緒にあげて下さいね〜。2連休でお願いしまーす」

「ん、了解〜。良かったべさ、啓くん。日ハムファンが増えるかもしれないわよ」

「どうだか」


大して期待していないような返事をしていた啓さんだったけれど、とりあえず私と野球観戦には行ってくれるらしい。
ちょっとホッとして、かなり嬉しくなった。


3冊の雑誌を抱えてルンルン気分で階段を駆け上がり、部屋に戻ろうとした時にちょうど自室から出てきた麗奈さんと鉢合わせした。


彼女はつい今まで携帯で誰かと電話をしていたらしく、右手にそれを握ったままだった。
なにやらいいことがあったのかニコニコしている。
そして、自分では気づかなかったけれど私も相当ニコニコしていたらしい。


「あら、深雪ちゃん。なんかいいことでもあった?嬉しそうだわ」

「え?そ、そんなことは……」


否定しかけてから、ハッと思い出した。
啓さんは麗奈さんと付き合ってるんだ、ってこと。
それなのに私と2人で野球観戦ってマズくないか?
私だったら他の女と2人きりで出かけるなんてことになったら気が気じゃないもの。
やっぱり止めた方がいいんじゃ……。


「私もね、今すっごく嬉しいことがあったんだぁ」


ゴチャゴチャ考える私の頭の中に、ハッピーオーラ全開の麗奈さんの声が響いてきた。
思わず「え?」と聞き返す。


「うふふふふ、やだぁ、私ったらニヤけが止まらない」

「あ、あの……麗奈さん、私……」


何を血迷って口にしようとしたのか、思い切って自分の気持ちを打ち明けてしまえと思ったんだけど。
麗奈さんの笑顔を見ていたら、その勢いは一瞬にして失速してしまった。


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