青と口笛に寄せられて
ダメだ、面と向かって「あなたの恋人の啓さんを好きになってしまいました」なんて、言えるわけないよ〜。
言ったらどうなるの?
この溢れんばかりの麗奈さんの笑顔が崩れ去るんじゃないの?
やっぱり、やっぱり、野球観戦に一緒に行くのは止めた方が……。
悶々と思い悩む私が麗奈さんをこれでもかというほど見つめていると、階段の下から啓さんの声がした。
「おーい、麗奈。いるか?」
「はいはい、いるわよ〜」
麗奈さんが下をのぞき込むようにして返事を返している。
「風呂空いたから、入っていいって。ん?深雪もそこにいるのか?」
「……い、います……」
かろうじてか細い声で存在をアピールすると、顔は見えないながらも啓さんの苦笑混じりの声が聞こえた。
「ちゃんと試合までに日ハムのレギュラー選手くらい把握しとけよ。それ課題な」
「は、はい…………」
上ずった声で返事をしたあと、おそるおそる麗奈さんを見やる。
どれだけ怒った顔をしているだろうと不安になっていたのだけれど、彼女は何故か感動したような表情を浮かべていた。
「深雪ちゃん、もしかして啓とプロ野球観に行くの?」
「ごご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!実は……話の流れで……」
ガバッと勢いよく頭を下げた私は、ぎゅっと固く目をつぶった。
天罰が下る天罰が下る天罰が下る〜!!!!
そう思っていたのに、予想外の返答があった。
「なんで謝るの?目いっぱい楽しんできたらいいべさ!」
ウキウキしたような口調でニコッと笑った麗奈さん。
彼女のあっけらかんとした様子に戸惑う。
何故?何故?何故ーーーーーーーーー???
ポカンとした私を取り残し、麗奈さんは「お風呂いただきまーすっ」とゴキゲンな足取りで階段を降りていってしまった。
もうダメだ………………。
よく分からないぞ………………。
頭の中がぐるぐるのまま、自分の部屋になだれ込んだのだった。