青と口笛に寄せられて


まだまだ肌寒い朝を迎えた。
だけど真冬のそれよりもだいぶマシな寒さ。
ネックゲイターは無くても過ごせるくらいの気候。


ここで働くようになってから毎日欠かさず身につけていた、啓さんにもらったネックゲイターを昨日から泣く泣くつけるのを止めた。
さすがにそこまで寒くなくなってきたから。
犬たちのトレーニングで台車を引かせる時も、ゴーグルもいらない。
帽子はまだかぶってるけど。


そのおかげでここ最近は啓さんの顔面をしっかりと拝む毎日が続いており、心臓に悪い日々を過ごしていた。


いや、だって。
あの綺麗な青い瞳が四六時中外に出ているわけで。
整った顔が何にも覆われないであらわになっているわけで。
ふとした時に目を合わせるとこっそりドキドキしてしまうわけで。


しかしながら私の地味な心臓活動など本人が気に留めるわけもなく、彼が私に目を向けるたびにブランコをブンブン不規則に揺さぶられるみたいに波打つ鼓動と戦っているのだった。


数日前に政さんのススメで啓さんと2人で行くことになったプロ野球観戦。
裕美さんから「休みが決まったわよ〜」と声をかけられたのはさっきだった。
今週末の金曜から土曜にかけて。そこで2連休をもらったのだ。


それ聞いて、いよいよだ、と実感した。
本当に2人で行くんだよね。
大自然が感じられるこの環境とはまた違うところに、彼と2人で出かけるなんて信じられない。
麗奈さんという恋人がいるのにいいのだろうか?
でも「楽しんできてね」って言ってたし、普通に観戦してくればいいのだ、きっと。


むふふ、うふふ、とついついニヤける顔。
その調子で鼻歌を唄って犬たちを順番にブラッシングしていく。
最初の頃は手間取っていたブラッシングもお手の物だ。
気持ちよさそうに目を閉じて身を委ねてくれる犬たちの表情がまた可愛くてたまらない。


フンフン機嫌よく唄っていたら、


「随分と機嫌がいいな」


と後ろで声がした。
振り向かなくても分かる。啓さんだ。


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