青と口笛に寄せられて
「お疲れ様です〜」と顔を半分だけ向けて無難な声をかけると、啓さんが犬舎の入口近くにいた犬のリードを2匹繋いで引くのが見えた。
檻の扉を閉めた彼は、ふと顔を上げる。
「聞いた?休みの日」
「はい。さっき裕美さんに教えてもらいました」
「金曜のナイターのチケットは取れたから。席はあんまり良くないけど文句ないしょ?」
「雰囲気が味わえればどこでも!」
ニッコニコの笑顔でうなずいた私に、啓さんが腕を組んで尋ねてくる。
「出来る限り行きたいところは連れてってやっから。もういくつか決めてるしょ?」
「決めてます!」
「例えば?」
うわー、デートみたいだ〜。
デートの計画立ててるみたいだ〜。
内心ウキウキしてしまう気持ちにどうにか鍵をかけて、平静を装いつつ答える。
「札幌なら時計台と、すすきのラーメン横丁と、それからクラーク像かな〜。あとはお店系なら……」
「ちょっと待った!」
言えと言われたから答えているというのに、まだまだ序盤で止められた。
何かしらと口を閉じると同時にツカツカと啓さんが私のそばまで来て、これみよがしにため息をついて見せてきた。
「なんだそのミーハーな選択は」
「え、ミーハー?だって観光ガイドに……」
「時計台とクラーク像は行くだけ無駄たべ。ラーメン横丁以外にも美味いラーメン屋はごろごろあっから。はい、次」
「ええええ、そんなぁ〜っ!お店系なら雪印パーラーとペンギン堂……」
「どっちかにしてくれ。アイスだのパフェだの似たようなもん出すしょ」
「えええええええ……。じゃ、じゃあペンギン堂……」
なによなによ!
行きたいところほぼ却下じゃないの!
ルンルンで雑誌を読みあさってた私の希望はどうなるのよ!
行きたいところは連れてってやる、って今さっき言ったじゃない!