青と口笛に寄せられて
不満げな私に気づいたらしく、啓さんは目を細めて首をかしげた。
ついでに言うなら彼がリードを握っている2匹の犬たちは退屈そうにあくびをしている。
「そんな顔するなよ。親切心で言ってるんだから」
「侍プリン食べたい……」
「え?」
「侍プリン!テレビでやってたやつ!それからはちきょうにも行きたい!テレビでやってたやつ!あとスープカレーも食べたい!」
「おいおい……」
「時計台がダメならテレビ塔!大泉洋の映画に出てきたマズいナポリタンが出てくる喫茶店!行きたい!行きたい行きたい!」
「………………」
思う存分わめき散らす私を、呆れ顔で受け止める啓さん。
いや、もう呆れているというよりも「この女、ミーハーどころじゃないな」という感想が顔に浮き出ている。
小樽運河とか旭山動物園とか襟裳岬とか富良野のラベンダー畑とか(これは今時期じゃないけど)、他にももっと沢山行きたいところはあったけど札幌からは遠いので我慢した。
札幌市内だけでもわんさか行きたいところが出てくる。
啓さんは仕方ない、とばかりにブツブツと私の希望を拾い上げて札幌観光計画を一気に口にした。
「金曜は早めに出てテレビ塔、スープカレー、ペンギン堂。観戦後に侍プリンをテイクアウトして、はちきょう。土曜は雪印パーラー行ってラーメンかナポリタン。これでいいか」
「は、はいっ!ラーメンもナポリタンもたぶん食べれます!」
「…………スープカレーとラーメンの店は俺が決める。以上」
「やったーーー!」
バンザーイ、バンザーイ!
と両手を上げて喜ぶ私の顔を見て、啓さんが笑ったような気がしたけど。
それは彼が背を向けてしまったのでしっかり確認は出来なかった。
彼は先ほどの2匹の犬を連れて、さっさと犬舎を出ていってしまった。
そして、その後ろ姿を見送りながら重大なことに気がついたのだ。
さっき、啓さんはなんと言っていた?
金曜と土曜のプランを立ててたよね?
「…………………………え?…………泊まり?」
ブラッシング中の犬が私をキョトンと見上げているのにも気づかず、1人でその場に立ち尽くしていた。