青と口笛に寄せられて


「そりゃ泊まりに決まってるしょ。知ってる?プロ野球って土日以外はナイターなんだよ?紋別から札幌まで車で4時間半かかるんだよ?バスも1日4本しか無いんだよ?せっかく札幌行ってお酒も飲まないで帰ってこれる?」


政さんの当然でしょ、というような矢継ぎ早な言葉を聞いて、私は「ぎゃああ!」と奇声を上げた。
いてもたってもいられなくて、ひとまず政さんに相談しにやって来た私。
ソリのメンテナンスをしている彼を訪ねて倉庫まで来たのだった。


まくし立てられて黙り込んだ私を見て、政さんはとても楽しそうに笑っていた。


「いいじゃないの〜、楽しいじゃないの〜。2人で美味しいもの食べて野球観てお酒飲んでさ。あわよくば、ねぇ?」

「うぐっ……。ゲホッゲホッ」


何を言いたいのか、この男は!
ヒュッと飲み込んだ生唾が気管に入り込んでむせる。
過剰な反応をしてしまった。


「あははははは!いいね、深雪ちゃん!可愛いよ〜」

「からかわないで下さいよ……」

「ごめんね。心配しなくても、ちゃんとホテルはシングル2室で予約してっから」


作業の手を止めて私の話し相手をしてくれている政さんは、ポンと肩を叩いてきた。
なんだか含んだような、企んでるような顔をしている気がするのは私だけだろうか。


「あいつが札幌行く時は、俺がいつもホテル取るんだわ。親戚がそのビジネスホテルで働いててさ、安くしてくれるんだ」

「そうですか……」


1人焦りまくってる私ってどうなのよ。
妙な冷や汗を感じつつ、はぁ、とため息をつく。
今からこんなにアタフタしてたんじゃ当日が思いやられる。


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