青と口笛に寄せられて
カイを連れているこの人は、手蔵泰助さんと名乗った。どうやら『TEKURA DOGSLED』のオーナーさんらしい。
観光客向けの犬ゾリ体験ツアーと、合計10部屋ほどを貸し出す民宿みたいなものを経営しているようで、冬が1番忙しいんだと話してくれた。
中でも繁忙期の1、2月はほとんど予約もいっぱいで、たまたま今日は宿に空きがあるんだそう。
あろうことか、宿まで車で一緒に行ってくれるということで。
ちゃっかり助手席に座らせてもらって、ぬくぬくと移動を共にした。
後部座席から時々カイがちょっかいをかけてきたりして、これがまた子供みたいで可愛いのなんの。
「カイがはしゃいでるな。ほんとに珍しいんだよ」
と、泰助さんは教えてくれた。
私ったら人間の男にはフラれたけど、犬には人気があるのかしら。
この際犬でもいいから、くたびれて疲れ切ったこの心を癒してほしい。いや、今現在めちゃくちゃカイに癒されてる自分がいる。
ハスキー犬は見た目はけっこうイカついっていうか、獰猛なイメージだったけど。
カイにはそういうのはちっとも感じられない。
むしろ人懐っこくて、あったかくて。
そして、青い目が綺麗。
吸い込まれそうだ。
「北海道、初めて来たんです。私、東京生まれの東京育ちで……。1番北の方でも栃木県にしか行ったことなくて。テレビでしか知らない北の大地ってどんなだろう、ってずっと思ってて」
遭難した時にはものすごい勢力を見せていた吹雪は、すでに落ち着いてパラパラ降る雪になっていた。
運転する泰助さんが太くてゴツいワイパーを作動させながら「へぇ」と興味深げに相槌を打ってくれる。
「そっか。じゃあこの雪でビックリしたしょ。特にこっちの方は札幌の辺りとは比べものにならないくらい雪が多いからね」
「はい!テンション上がってます!かまくらとか、作ってみたいです!」
「あはは、そうか〜。いいね、ぜひ明日の朝にでも作ってみたらいいよ」
初対面だというのに会話が弾む。
これはきっと、泰助さんが観光客と話すことに慣れているからだ。
今まで数え切れないほどの観光客と接してきたんだろうから、私の話し相手もお手の物なのだ。