青と口笛に寄せられて
「ほんと、犬みたいな女だな」
口元に手を当てて笑いをこらえる啓さんを見ていたら、私は彼の言いたいことがなんとなく分かってしまって口を尖らせた。
「どうせ単純ですよ」
「分かりやすくていいべさ」
「バカにしてません?」
「褒めてるよ」
それまで口元を押さえていた啓さんの手が私の頭に伸びてくる。
どうしてなのか暗かったはずの世界が妙に明るくなって、彼の顔もよく見えた。
真っ直ぐに私を見ている。
フワッと触れるように頭の上に乗せられた彼の手は、少し冷たくて。それが心地よかった。
「深雪といると、ちょっとだけホッとする」
見つめ合ったまま私の心臓の鼓動は恐ろしいほどに加速し、今の啓さんの言葉の意味が一体なんなのかさえ解読できない。
胸が苦しくてはち切れそう。
何かを口にしたらこのまま「好き」って言ってしまいそうだから、口は閉ざす。
いつの間にか足は止まって、カイが不思議そうに私たちを見上げている。
啓さんの手は私の頭の上から、ゆっくり後頭部に回された。
そういえば、私はこの人に助けてもらった時に「よく頑張ったな」って頭を撫でてもらったんだ。
あれは効いた。あれだけで折れかけていた心が持ち直した。
私も啓さんも何も言わず、後頭部に回された手もそこから動くことが無く、じっと目を合わせたままだった。
何も言ってくれない。
こんな状況はかなり困るぞ。
いくらなんでも私だって期待しちゃうんだけど。
今抱きしめられたりしたら、きっと止まらなくなるな。