青と口笛に寄せられて
「ただいま〜。おーい、裕美!お客さんだよー」
だだっ広い玄関に、雪のついたスノーブーツを脱ぎ捨ててさっさと歩いていく泰助さん。
家の中まで入り込むのはおかしい気がしたので、私は靴を履いたまま玄関で待つことにした。
何も言われていないのに、カイはお利口さんに玄関に腰を下ろしてじっとしている。
よくしつけされてるなぁ、と感心した。
木の柱がむき出しになった玄関。
たぶん中も同じような感じだろう。
ログハウスの延長みたいな一戸建ての素敵な家だ。
一歩外に出れば極寒だというのに、玄関に入っただけですごく暖かい。
キャリーケースをゆっくり下ろして時間潰しにカイの頭を撫で撫でしていたら、ガチャッと重厚な音を立てて玄関のドアが開いた。
背後から飛び上がるほどの冷たい空気が入り込んでくる。
「寒っ!」
思わずそんな感想が口をついて、勢いよく振り向く。
そこには、全身雪にまみれた背の高い男の人が立っていた。
グレーのニット帽。
おっきなゴーグル。
真っ黒のネックウォーマー。
鮮やかなブルーのダウンジャケット。
あ、これでダークブラウンのダウンを着ていたなら、犬ゾリで助けてくれた人と同じなのに。
ここの人たちはみんなこんな感じの服装なんだな、きっと。
不意にそんなことを思いつつ、顔がよく見えないその人に軽く会釈して場所を開けた。
広々とした玄関に大人2人と犬1頭がいようとも、まだまだスペースに余裕がある。
うちの実家の何倍の広さなんだろう、この家は。
なにもかも規模が違うなぁ、と呑気な考えが頭をよぎる。
外から入ってきたその人は払い切れなかった雪を玄関で払い、黒い手袋を外すと玄関の脇にいくつかあるS字フックのひとつにそれを掛ける。
慣れた動作で身につけているものをどんどん外していく。