青と口笛に寄せられて
8 たまには素直になってみましょう。
ビジネスホテルと言えば当然余計なものは置いていないし、旅館みたいにもうひとつ和室があるわけでもないし、基本的に室内が狭い。
人ひとりが歩けるくらいの隙間を開けて配置されている2つのベッドが、なんとも言えない距離感だ。
静かな部屋に入るやいなや、私はいそいそと窓際のベッドからシーツを剥ぎ取って、ベッド間の隙間の真ん中にそれを細長くして置いた。
「これでよし、と」
大した作業でもないのに額に汗をかいてしまった。
ようやく荷物を下ろした私に、啓さんが不思議そうに床に置かれている畳まれたシーツを眺めている。
「なんなのこれ」
「仕切りです。これから先、ここはまたがないようにしますから!啓さんのエリアには決して近づきませんからご安心を!!」
「…………普通逆だと思うんだけど……」
「はい?」
「ううん。なんでもない」
ダウンを脱いでゴロンとベッドに横になった啓さんは、天井を見つめてぼんやりしている。
私は買ってきた侍プリンを部屋の冷蔵庫に入れて、無音には耐えられないのでテレビをつけておいた。
ちょうどスポーツニュースで日本ハムが勝ったという情報を流していて、
「やっぱりあのあと勝ったんですね〜」
と、話しかけてみる。
「うん、そうだね」
「今日食べたスープカレー、写真撮るの忘れちゃいました。あと、つっこめしの写真も。失敗しちゃったな」
「また来ればいいんでない」
「せ、せっかくだから札幌ドームの前で記念写真撮れば良かったです!それも忘れちゃって」
「また来ればいいべさ」
「それからそれから……」
「深雪」
ペラペラしゃべり続ける私を見兼ねて、啓さんがムクッと起き上がってため息をつく。
「少し落ち着いて。一緒にいて嫌なのは分かるけど」
「えぇ!?い、いえいえ。決して嫌とかそういうことでは……」
むしろ逆なんですがね。
それは口には出せない危険なワードだけど。